パフィーと対バン「愛の説教小屋」~オオヌキ的にもオールNG~
2015.08.11(火)@東京・豊洲PIT
(w/T.M. Revolution)
オフィシャルライブレポート



8月11日、東京・豊洲PITにてPUFFY主催の対バンイベント『パフィーと対バン「愛の説教小屋」~オオヌキ的にもオールNG~』が開催された。来年、PUFFYがデビュー20周年を迎えることを記念して企画されたこのイベント、第1回目の対バン相手はなんと、同じく来年デビュー20周年を迎えるT.M. Revolution。

このマッチングには、20周年ともなると過去のいろんなことがアリになるんだなぁと多くの人が感じたことだろう。長い間活動を続けていくうちに様々な思いやこだわりが溶け、これまではナシだった物事がアリになり、そこからまた新しい何かが生み出されていくのだろう。間違いなく今日はその第一歩だ。

チケットは当然ソールドアウト。開場前から多数のファンが詰めかけた。中には、T.M.R. 西川貴教が発起人を務める音楽フェス「イナズマロックフェス」にPUFFYが出演した際に着用していた「打倒T.M.R.!」Tシャツに対抗し、自作の「打倒PUFFY!」Tシャツを着た女子2人組の姿も。様々な因縁が絡み合い、会場周辺は早くも熱気に溢れていた。



開演時間が近づくと誰ともなく手拍子が起こり、次第にそれは万雷の拍手へと変わっていく。開演前のアナウンスが終わると、場内はさらにヒートアップ。これはすごい。通常のライブとは雰囲気が全く違う。この時点で今日の成功は約束されたようなものだ。

フロアの熱気に押されるようにオープニング映像が流れ始める。Black Sabbath風(笑)のおどろおどろしい「小美人」をバックに、怪しげな古城の窓を模したスクリーンに大貫亜美と吉村由美のシルエットが映し出され、T.M.R.の紹介をする。「T.M. Revolutionって知ってる? 実を言うと、私、彼の大ファンなの。腹筋が割れてるし、差し入れの趣味がいいのよねぇ。あと、女の趣味? 私はいつか彼と結婚したい!」と大貫が西川をいじり倒す。この2組にまつわる事情をよく知っている観客は大ウケだ。

ひと笑いの後に登場したT.M.R.は、のっけから前のめりなパフォーマンスを見せる。オープニングナンバーは「HIGH PRESSURE」。続いて、自身最大のヒット曲「WHITE BREATH」をメタリックでハードなロックサウンドで披露。西川の圧倒的なボーカルとバカテクの演奏陣は3,100人の観客を早くも圧倒。ステージの勢いに負けじとばかりに、双方のファンが拳を突き上げる。

「いらっしゃい! 地獄の一丁目! 行くも地獄、退くも地獄。じゃあ、行くしかないだろう!」という短いMCの後、最新シングル「DOUBLE-DEAL」をプレイ。「Crosswise」では強烈なヘドバンを見せるなど、西川の気迫がとにかくすごい。彼のパフォーマンスに引っ張られるように、観客もますます声を張り上げる。

時間を惜しむように立て続けに楽曲を披露した後、西川はフロアに来場の感謝を表した。しかし、拍手に混ざって投げかけられた「おめでとう!」というフロアからの声に、「ちょっと待って! チケット料金にもあるように、7,129円(無い復縁)だから! ひっついてる時はいろいろ言ってたじゃない! なのに何? 10年目を境に丸く収めようとして!」と戸惑う西川。「みんな、軽はずみに"おめでとう!"って言わないで! 明日の朝、(ネットが)荒れるでしょう!」と慌てる姿が、本人には申し訳ないが面白くて仕方がない。

高速で鳴らされるバスドラが気持ち良い「UTAGE」から始まる後半戦は、まるでワンマンライブの様な盛り上がり。あまりの熱狂に、「Naked arms」で西川は上半身裸になり、見事な肉体美を披露。ここからはもうテンションの応酬だ。観客が気持ちいいほどの大合唱を響かせたかと思えば、西川はステージドリンクを次々と客席に投げ込んだり、ステージ中央で半ケツをチラ見させたり、なんだか意味がわからないがとにかく場内にいる人間全てが、ものすごいテンションでアガり狂ってる様子が伝わってくる。

「The Party Must Go On」の最後には勢い余ってマイクを落としてしまったが、そんなことはお構いなしに、両腕を突き上げながらオフマイクで熱唱する西川の姿に、観客のボルテージは上がっていく。最後は吉村からリクエストされたという、96年のヒット曲「HEART OF SWORD ~夜明け前~」をよりグルーヴィーに披露。ホールかと錯覚するほどの大合唱に包まれた。終わってみれば、60分の持ち時間を30分に感じさせる疾走感と、2時間分の濃厚さで見せる素晴らしいステージだった。



後攻のPUFFYは、T.M.R.の豪快なパフォーマンスに対抗していくかと思いきや、そこはさすが19年選手。彼の真逆をいくマイペースなステージを展開。オープニングは「赤いブランコ」。泣きの名ロックチューンに続いては、「海へと」「サーキットの娘」といったヒット曲を連発。芯がありボトムの引き締まった演奏と素朴で伸びやかなボーカルでじっくり聴かせる。

ステージ上の2人はあくまでも自然体でゆるい。デビュー当時から一切ブレることなく、20年近くこのスタイルで活動を続けてきたという事実は驚異的だ。2人がデビューした96年に、「20年後も同じスタイルでやってるよ!」と未来人から告げられてもきっと信じられなかっただろう。2人の飄々とした姿からは感じることはできないが、ここにPUFFYという2人組の凄さがあるのだ。

MCでは「愛の説教部屋」というイベントタイトルにちなんで、西川に対する説教を展開。「なんで(西川はライブ中に)脱ぐんですか?」と大貫が言えば、「脱いだ時の歓声が一番でかかった。"にしかわきんに君"に改名すればいいのに」と吉村が当意即妙に返す。こんなところにデビュー19年のチームワークを感じる。

続いて披露されたのは、新曲「COLORFUL WAVE SURFERS」。OKAMOTO'Sのギタリスト、オカモトコウキが提供したビートルズ風の軽やかなナンバー。観客も気持ちよさそうに体を揺らす。「ブギウギNo.5」「マイストーリー」と続いた後は再びMC。先ほどに続いて西川をイジった後は、吉村が西川に「HEART OF SWORD ~夜明け前~」をリクエストした時の話に移る。実は「THUNDERBIRD」が第一希望だったけど却下されたと吉村が舞台裏を明かすと、フロアから一斉に落胆の声が。

その後もダラダラとメンバー紹介をしたり、大貫はムダ話を引っ張ったり、演奏時間よりも喋ってる時間の方が長いんじゃないかと思うほどの爆笑トークが続くが、パフォーマンス自体がダレることはない。デビュー以来ずっと貫いてきたこのスタイルはもはや職人芸の域に達している。
タイトル通りチャイナチックでキャッチーなロックチューン「オリエンタル・ダイヤモンド」、言わずと知れた大ヒット曲「渚にまつわるエトセトラ」、スウェーデンのロックデュオThe Merrymakersが手掛けた「boom boom beat」、チバユウスケ作詞作曲の「誰かが」と新旧のヒット曲や人気曲を織り交ぜたパフォーマンスが続く中で気付いたことがある。それは2人の声のツヤ。19年前から全く変わらないのである。メンバーこそ変わっているものの、バンドサウンドの方向性も一貫している。勢いで押すのではない、安定感のあるシュアな演奏。最近の流行りとは異なるけど、しっかりと「今」の音を鳴らしているのだ。そんな2人の変わらぬ信念に惹かれ、今も多くのファンがPUFFYという存在を愛しているのだろう。最後に、T.M.R.のファンも巻き込み大盛り上がりを見せた「アジアの純真」を聴きながら、改めてそのことを実感した。



アンコールでは、最初にステージに現れた大貫が吉村を呼び込む。すると、大貫とお揃いのPUFFYのツアーTシャツ&ジーンズ姿の西川が現れ、会場は爆笑の渦に。そして、「これが私の生きる道」を2人で歌い切る。間奏のハープ演奏に加え、しっかりと振りコピまでしている西川の徹底ぶりがなんだかかわいい。

その後、吉村を呼び込み、3人のフリートークでフロアを湧かせた。大貫が改めて本人に「なぜ脱いだ?」と突っ込むと、「(世間が)フィットネスに対してポジティブになってきてるし、ブヨブヨよりはいいかなって…」と西川。「でも、限度があるでしょうよ。(腹の筋肉を)何段まで割るの?」「今、6つに割れてるので、8つ目に入ろうかと…」というやり取りが楽しい。そんな3人の様子にフロアも黙っちゃいない。T.M.R.が20周年に何を企画してるのか教えて欲しいとPUFFYの2人が詰め寄ると、「披露宴!」と観客から茶々が入り、場内爆笑。

最後は3人でT.M.R.「HOT LIMIT」をオリジナルアレンジで熱唱し、エンディングを迎えた。こんな3人の姿が拝めるなんて、10年前に誰が想像しただろうか。2組のサウンドこそ全く違うものの、音ではなく心で繋がった一夜だった。

この対バンイベントはデビュー20周年の来年後半まで不定期に続くという。今日の成功を受けて、今後の企画内容にもかなりの期待が集まるだろう。(阿刀"DA"大志)